令和8年5月22日

NITSニュース第256号

はじめに

風薫る5月、新緑がいっそう鮮やかさを増し、日ごとに初夏の気配を感じる頃となりました。各学校や教育現場では、新たな体制や出会いの中での歩みが、少しずつ形になってきているのではないでしょうか。忙しさの中にも、変化や可能性を感じる季節でもあります。

今月号の学びの交差点は、教職員支援機構新理事長 和嶋延寿「他者との心理的な距離と学びについて」をお届けいたします。

研修や日々の教育活動において、出会いをどのように学びへとつなげていくのか。本号が、他者との関係性や対話のあり方について改めて考えるきっかけとなれば幸いです。

今月の目次

1. 学びの交差点

2. お知らせ

1. 学びの交差点

他者との心理的な距離と学びについて

独立行政法人教職員支援機構 理事長 和嶋延寿

4月上旬、NITS職員を対象に「研修マネジメント力協働開発プログラム」(マネプロ)第1回が開催されました。私は特定のグループには加わらず全体の様子を見せてもらいましたが、どのグループの参加者も聞き上手であると同時に、話し手としても相手が自分に対して興味を持ってもらえるような自己紹介をしていることに感心しました。

対話によって気づきが深まる過程では、自分のことを自らの言葉で語ることの重要性はもちろん、他者の言葉をきっかけに自分の考えが深まるという側面もあります。ただ、相手の言葉をどこまで深く自分の中に落とし込んで考えられるかは、その相手との心理的な距離によって違うのではないかと思います。他者との心理的な距離は、「好き」「嫌い」というものとは別に、「興味あり」から「関心なし」のどの場所に位置するかということもあるのだと思います。対話の中で、興味ある相手ならその言葉を自分の中に一旦取り込んでみることに抵抗感はないでしょうし、全く関心のない人の話なら、内容の如何にかかわらず右から左に流れていくのではと想像できます。

30数年前、学習に気持ちが向きにくい生徒が多くを占める高等学校に赴任した時のことです。数学の教員として「『数学って楽しい』と思ってもらいたい」と、授業の中で数学パズルを取り入れたり、歴史上の数学者の偉業をなるべくわかりやすく伝えたりするなどの試みをしました。あの手この手で生徒の興味を引き付けようとしましたが、なかなかうまくいかず5月、6月と徐々に出席する生徒は減り、出席していても1時間いっぱい机に突っ伏して寝ている生徒が多くなりました。

その学校には、交友関係で暴走族とのつながりのある生徒も少なからず在籍しており、男子生徒の多くは授業中もバイク雑誌を教科書としていたり、枕代わりにしたりしていました。そこで、夏休みを利用して自動2輪の免許をとり、2学期からは授業の中でバイクの話題を取り上げてみました。すると少しずつクラス全体の授業の食いつきがよくなり、さらにその後1コマの中でバイクの話をしない授業でも、寝ないで少しは授業に参加する生徒が増えたのです。当時を改めて思い返すと、彼らにとっては、授業の内容とは別に、バイクという共通語を話す私に少し興味を持ってくれた結果だったのではと思っています。教師と学習者との心理的な距離についてきちんとまとめられたものがあることを知ったのは、それからかなり後のことです。

私たちが目指す「新たな教師の学びの姿」を実現するために、研修参加者同士の出会いや対話は欠かせないものだと思います。それを深い学びにつなげるためには、参加者間の心理的な距離をいかに縮めるかが重要であり、自己開示はその大事な手法です。

まずは上手な自己紹介をして、周囲の方々から「この人面白そう」と思ってもらえたら、その後の研修は相互に実りあるものになるのではないでしょうか。

2. お知らせ

研修マネジメント力協働開発プログラム(地域版)

「北海道」「関東甲信越」「東海北陸」「近畿」「中国四国」の各地域は、開催日程・場所が確定しました。「研修観の転換」に向けた「学び合いのコミュニティ」形成支援事業ページの「各地域の実施について」を更新していますので、実施要項をご参照ください。

ご寄附のお願い

NITSでは、教職員の学びを支える研修や調査研究の充実に向け、寄附を募っています。皆様からのご支援は、教育の質の向上と、子どもたちの未来につながる取組に活用されます。ご寄附を一つ頂くごとに、花畑に花が一輪咲きます。

次号は令和8年6月22日発行予定です。主な内容は「NITS大賞受賞校その後…」を予定しています。