NITSニュース第251号 令和7年12月22日

「体力向上」について

東京学芸大学 副学長 教授 鈴木聡

先日、NITSが主催する「体力向上マネジメント研修」の講師を務めました。2019年度から主に中学校・高等学校の先生方とこのテーマを追究しており、熱心な先生方との議論は、いつも刺激に満ちています。今年度の議論では、重要な視点が投げかけられました。「なぜ体力向上をマネジメントする必要があるのか」という問いです。児童生徒の体力低下が叫ばれて久しいものの、この課題はいまだ解決されておらず、学校で体力向上に組織的に取り組む必要性が改めて問われています。なぜ学校で「体力向上のカリキュラムマネジメント」が必要なのか。非常に本質的なテーマです。

そもそも「体力」とは何でしょうか。大学の授業で学生に尋ねると、スタミナ、筋力、持久力などが挙げられます。瞬発力や敏しょう性、平衡性なども含め、これらは新体力テストなどで数値化できる「身体的な体力」です。一方で、自分の意思で判断し、意欲的に行動するための力も体力です。これらは「行動体力」と呼ばれます。そして、病気やストレスなど外部からの刺激に対する抵抗力や適応能力を「防衛体力」といいます。免疫力や体温調節能力などの「身体面」と、ストレスに耐える力などの「精神面」を含むものです。

私たちは、子どもたちの体力低下を語るとき、特に行動体力の身体面に目が向きがちです。しかし、本来は多様な側面を総合的に捉えていく必要があります。コロナ禍において、体力とは運動能力だけでなく、健康を守る「抵抗力」や「適応力」であることを改めて認識しました。

では、なぜ体力向上なのでしょうか。答えの一つは「健康に生きるため」と言えるでしょう。体力の向上や健康の維持には、食事や休養とともに、運動や身体活動が効果的であることは数多くの研究で報告されています。しかし、「ここ何年も運動をしていないけれど、特に困っていない」という方もいるかもしれません。日々忙しく、運動する時間が取れないのは、多くの大人が感じていることです。年齢を重ねるほど、意識しないと人は運動しなくなるものです。それでも、すぐに健康が損なわれるわけではありません。

しかし、ある日体調を崩し、医師から運動を勧められたとしましょう。そのとき、実際に運動を始められる人は、子どもの頃に運動が好きだったり、習慣があったりした人だといいます。これを「運動の持ち越し効果」と呼びます。子どもの頃の多様な運動経験や習慣が、大人になってからの運動習慣、健康状態、体力、さらには生涯にわたる運動意欲にまで良い影響を与え続ける現象です。

唯一無二の身体を守るのは自分自身です。生涯にわたって健康で豊かな生活を送っていくためにも、教育の場で運動に前向きに取り組む姿勢を育てていくことが大切です。そして、体力とは運動だけを指すものではありません。読書や音楽、映画鑑賞といった趣味を持ち、精神的な体力を充実させていくことも、日々を健やかに生きるための力になります。

「体力向上」に取り組むことは、単に運動能力を高めることではなく、生きる基盤づくりだと言えるのではないでしょうか。教育に携わる私たちは、この基盤を子どもたちの中に育てる役割を担っているのだと思います。