NITSニュース第248号 令和7年9月22日
「個別最適な学び」をふまえた学習評価をどう考えるか
京都大学教育学部 教育学研究科 准教授 石井英真
ICT活用の進展とともに「個別最適な学び」が注目を集めていますが、その言葉の意味は自明ではありません。「個別」という言葉が示す一人ひとりに応じた教育について、できる・できない、早い・遅いという一元的で垂直的な量的差異に着目する「個別化」と、それぞれの子どもの興味・関心や持ち味を尊重するという多元的で水平的な質的差異に注目する「個性化」では、実践の方向性は異なります。前者の発想で目標までも無限定に個別化することについては、学びの孤立化や機械化が危惧されます。しかし、後者の発想に立つと、一人ひとりの個性はむしろ共通の大きなゴールや題材をともに眼差しながら、他者とともに対話して学び合うことで確認・発見・承認され、磨かれ豊かになっていくものです。
「最適」という言葉については、「快適な学び」という方向性でのみ捉えられていないか注意が必要です。特に、ICT活用やデジタル化は、便利さやスマートさを実現する方向で実装される傾向にあります。教師や他の大人が手をかけなくても自分で、自分たちだけで学びを進めているように見えて、大人たちが設定した一定の枠内で、あるいは、自分の世界観の枠内に閉じた形での主体性になっているかもしれません。それは、大人にとって都合の良い従順な主体性であり、学び手自身にとっても、自分の嗜好や信念に閉じていく自己強化であり、既存の選択肢から選ぶ、あるいは選ばされる学びとなっているかもしれません。
AIドリルで「個別最適化」されることで、受け身の学びに陥るのではなく、子どもたち自身が主体的に学びたいものを学び続けていく「子ども主語」の学びにつなげていきたい。そのような志向性が「個別最適な学び」という言葉には含まれています。また、個々人にとって「最適」というのも、指導の手立てや学び方といった方法レベルに止まるか、そもそもの目標レベルで考えるかは論点となります。自由進度学習などで、目標までも無限定に自由に個別化すると、格差の拡大や分断につながる危惧もあります。
そこで、「個別化」については、子どもたち任せで自由に自習室的に学び進めていくようなプログラム学習に止まらせず、学校や教師が責任をもって一定水準の目標達成を保障する、完全習得学習(共通目標の達成に向けた方法の個別化)として遂行する(「指導の個別化」)。また、「個別最適な学び」は、教育の「個別化」に止まらせず、教育の「個性化」としても展開していく必要があります。その際、クラス全体での協働的な学びにおいて、それぞれの持ち味や個性的な考え方を教師が取り上げ、つなげ、ゆさぶったりして練り上げていくような学び(一人ひとりを生かした創造的な一斉授業)は、これまでも少なからず展開されてきました。しかし、より一人ひとりのやりたいことや追究したい問いや自律性を重視する「子ども主語」のプロジェクト型の学びを促すべく、「学習の個性化」が提起されているとみることができます。
「孤立快適な学び」に陥らず、協働性を基盤に多様性を生かし包摂するような「個別最適な学び」のあり方を考える上で、「真正の学び」と結びつけて考えることが有効です。「個別最適な学び」が目指す柔軟でフレキシブルな学びの展開は、たとえば、部活動で試合というゴールに向けてみんなで練習したり少人数で学び合ったり各自自主トレしたりするように、また、美術などの作品制作に、時に学び合いながら、自分のペースで各自取り組んだりといった具合に、単元単位で大きな問いや課題に取り組むことで生み出しやすくなります。それを軸に学力の三層構造(「知っている・できる」「わかる」「使える」)を意識して単元を設計し、課題遂行の必要に応じて学習者自らが自主トレ的に個別的な知識・技能を習得するのを支援する「指導の個別化」を位置づけながら、クラス全体やグループで各人の考えを交流し深めたり協力して問題を解決したりする「協働的な学び」を遂行しつつ、課題遂行の先に新たに自ら追究したい問いや課題が各人に生まれること(授業や学校を学び超えていく主体性)を支援したりするわけです(「学習の個性化」)。
学力の三層構造をふまえれば、AIドリル等を生かした「指導の個別化」は、「知っている・できる」レベルの知識・技能の確実な保障に寄与する。また、つまずきを生かしたりしながら展開する練り上げのある授業は「わかる」レベルの学力を主に保障するものですが、学習者主体のプロジェクトでeポートフォリオ等に学びの履歴を蓄積していく「学習の個性化」は、「使える」レベルの思考や態度の育成と評価に寄与するものと捉えることができます。「真正の学び」に内在している「個別最適な学び」のプロセスを意識化し、学力の三層それぞれの効果的な実現につなげていく視点が求められます。
参考文献
- 石井英真『中学校・高等学校 授業が変わる学習評価深化論』図書文化、2022年